研究概要 |
本研究は,西太平洋の熱帯・亜熱帯海域の海底洞窟に生息する隠生動物群(特に軟体動物群)の多様性とその独特な適応戦略を明らかにすることを目的として行った.調査地域は西太平洋の全域で,日本列島からミクロネシア,ポリネシアに及ぶが,日本国内の調査と採集資料の室内研究をこの研究費でまかなった. 平成9年度には,これまでにダイバーの協力を得て採集した紀伊半島,琉球列島各地,南大東島,小笠原諸島,サイパン,グアム,ヤップ,パラオ,セブ,ボホール,シパダン,フィージ-,ニューカレドニア,トンガ,タヒチ,ハワイなどの生体資料と洞窟内の底質資料中の微小貝類の遺骸をソーティングし,種の同定と観察を行った.その結果,地域ごとの二枚貝群の構成と地理的分布がほぼ明らかになった.これまでに全域で同定された洞窟性二枚貝は未記載のものを含めて約110種に達する.また,遠隔の地域間でかなり多くの共通種が存在し,これまでに予測された洞窟二枚貝の独特な適応戦略(例えば,矮小化,幼形進化,K淘汰,深海種との類似,大卵少産性,高い保育種の比率)がきわめて普遍的であることを確認した. 多くの状況証拠から考えて,このような特徴は相互に密接に関連し,それらの生じる原因が洞窟の特殊な環境(特に貧栄養)にあることは疑いない.洞窟性二枚貝の特異性は,世界が極端な貧栄養に見舞われた時に,どのような適応戦略が有利になるかを具体的に示していると考えられることができる.
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