研究概要 |
本研究は、西太平洋の熱帯・亜熱帯海域に生息する隠生動物群(特に海底洞窟の軟体動物群)の多様性とその適応戦略を明らかにすることを目的として行った.調査地域は西太平洋の全域で,日本列島からミクロネシア・ポリネシアに及ぶが、日本国内の調査と海外を含めた採取資料の室内研究をこの研究費でまかなった. これまでに熟練ダイバーの協力を得て採取した国内(紀伊半島,沖縄島,宮古島,久米島,与那国島,南大東島,小笠原諸島)および海外(サイパン,グアム,ヤップ,パラオ,セブ,ボホル,シパダン,フィージ-,ニューカレドニア,トンガ,タヒチ,ハワイ)などの海底洞窟資料(生体と底質資料)をソーティングして微少貝類の同定と観察を進めてきた.その結果,二枚貝類については地域・洞窟ごとの種の構成と各種の地理的分布がほぼ明らかになった.全域で同定された洞窟性二枚貝は未記載のものを含め100種以上に達する.また,遠隔の地域間ではかなり多くの共通種が存在し,これまでに予測していた洞窟二枚貝の独特な適応戦略(例えば,稀小性,幼形進化,K陶汰,深海種との類似,大卵少産性,高い保育種の比率)がきわめて普遍的であることを確認した. 多くの状況証拠から考えて,このような特徴は相互に密接に関連し,それらの生じる原因が洞窟の特異な環境(特に貧栄養)にあることは疑いない.洞窟間の移住の機構などまだ解明されていない問題も残されているが,海底洞窟の動物群の特異性は,世界が極端な貧栄養に見舞われた時に,どのような適応戦略が有利になるかを具体的に示していると考えられる.
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