研究概要 |
1.本研究の第2年次にあたる平成8年度には,九州地方において秋季および春季の2度にわたり,また沖縄県(久米島)において春季にそれぞれ採集調査を行った.九州においては国立科学博物館が一般予算で行っている日本列島の自然史科学的総合研究の一環として夏季にも現地調査を行い,そこで得られた資料も参考にすることができた.調査で採集された多数の標本は,国立科学博物館の施設を利用し解剖,測定などの作業を行い、比較形態学的,系統分類学的な解析を進めた.それと同時に,同博物館が現有する日本および海外各地のクモ類標本の研究も進め,本研究の課題である東アジアの暖温帯林におけるカニグモ類の系統と多様性を明らかにするための資料の検討を試みた. 2.以上の中から,韓国および中国に産し日本からは記録のなかったOxyptila nongaeという土壌性のオチバカニグモ属の特異な種がわが国の日本海側の各地に生息していることを確認し,新しい材料に基づいて英文の論文を作成し公表した.また,八重山諸島西表島に生息するトラフカニグモ属の1新種(Tmarus komi)を見い出し記載した.その種は従来日本から知られる同属の各種と形態学的にひじょうに異なり,東南アジアにその系統的な起源をもつものと推定された.さらに科研費の国際学術研究で行われた海外調査の成果との関連で,「ベトナム北部から得られたカニグモ属(Xysticus)の1種」の演題で日本蜘蛛学会第28回大会において口頭発表を行い,アジアに特徴的な同属の種群の系統や分布について解説した. 3.次年度は本研究と博物館の経常研究や国際学術研究をさらに有効に結び付け,本類のアジアでの多様性と系統的な特性について突っ込んだ議論を展開したい.
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