1.本研究の最終年度となる平成9年度には、本州南部(夏季)、沖縄本島、伊平屋島(冬季)および九州南部(春季)において、補足的な現地調査を行い、多数の資料を採集した。調査で得られた標本は、国立科学博物館の施設を利用して、解剖、測定などの作業を行い、比較形態学的および系統分類学的な解析を進めた。同時に、中国やドイツ、オーストリアの研究者と連絡をとりながら、博物館が所蔵する、日本や東アジア各国のクモ類標本の研究も進めた。 2.以上の研究の過程で、西表島に産するTmarus(トラフカニグモ属)の1種を新種と認め、多くの材料にもとづき英文の論文を作成し公表した。比較形態学的な検討から、その種はユーラシア大陸の暖温帯に広く分布するstellio種群に属し、とくに奄美大島に産するアマミセマルトラフカニグモに近縁であると推定された。 3.トラフカニグモ属については、日本産および中国、台湾、韓国などの近隣諸国の種の系統学的な検討を行い、その結果について、日本蜘蛛学会第29回大会において、「日本のトラフカニグモ属(Tmarus)の系統と分布」の演題で口頭発表を行った。日本に生息する同類には7種が認められ、それらは、piger種群、stellio種群および東南アジア起源の未知の種群の異なる3群に分類される。 4.新たに見い出した知見を加えて、平成7、8年度の研究結果とあわせて、カニグモ科クモ類の東アジアにおける系統と多様性について総合的な検討を行い、研究成果報告書を作成した。
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