1.これまで本類の資料が不足していた本州南西部、四国、九州および琉球諸島などの植生のよく保たれた林地において、数次の調査を実施し、多数のクモ類標本を採集した。 2.調査で得られた標本ならびに国立科学博物館が所蔵する国内および海外の暖温帯林、とくに国際学術研究による東アジア各地(ネパール、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、台湾)のクモ類標本にもとづき、カニグモ類の比較形態学的および分類学的研究を行なった。その結果判明したいくつかの新知見について、日本蜘蛛学会大会で口頭発表したほか、6篇の論文を作成した(発表論文参照)。 3.従来は未知であったヨコフカニグモ(Xysticus transversomaculatus)の雄を初めて見い出し詳細に記載した。シンガポールからミナミタルグモ属(Sanmenla)の1新種(Sanmenia kohi)を記載した。この属は東アジア特産のもので、カニグモの系統を論じる際に重要な一群である。また、最新の情報にもとづいた福島県のクモ類相について論じた。大陸に産し日本からは記録のなかったOxyptila nongaeという土壌性のオチバカニグモ属の特異な種が、わが国の日本海側の各地に生息していることを確認し記録した。 4.トラフカニグモ属(Tmarus)についてはとくに詳細な比較形態学的な検討を行い、日本に生息する7種を、3種群に分類した。このなかで、西表島に生息する同属の2新種(Tmarus komiおよびTmarus shimojanai)を記載した。前種は特異な形態をもち、東南アジアに系統的な起源をもつ未知の種群のものと考えられ、後種はユーラシア大陸の暖温帯に広く分布するstellio種群に属し、とくに奄美大島に産するアマミセマルトラフカニグモに近縁であると推定された。
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