研究概要 |
ヒトとその最も近縁な種であるチンパンジーとの染色体を比較研究し、種分化ならびにヒト化における染色体構成の変化の意義について解明することを目的とした。最近では、クローン化されたヒトの遺伝子やDNAフラグメントを染色体上に位置付けする比較遺伝子地図作成(マッピング)により、霊長類種間の相同染色体の構成が調べられている。ヒト第2番染色体は他の霊長類では2本の染色体にわたるsynteny segmentで構成され、ヒトにいたってはじめて2本の染色体融合により構成されたと考えられる。そこで、ヒト第2番染色体長腕2q12-q14にマップされたコスミド・クローン37個につきfiber-FISH法で配列を決定し、次いで同様にチンパンジーの染色体ならびにDNAファイバー上へのFISHを行った。その結果、ヒト染色体のセントロメア側19個のクローンがチンパンジー染色体第12番短腕、テロメア側18個がチンパンジー第13番染色体短腕に位置づけされ、しかもその配列順序は両種で変わらなかった。このことは、祖型であるチンパンジー型の第12・13番染色体が短腕末端同士で向き合い直列に融合し、ヒト型第2番染色体が構成されたことを証拠づける。事実、第2番染色体長腕2q13に約100コピーの2組のテロメア反復配列(TTAGGG)nが対向して存在すると報告されている。ヒト2番染色体にみられるようなテロメアでの直列融合は,腫瘍組織で頻繁に見られる染色体再配列である。構造上きわめて不安定なこのような領域が、ヒト染色体上に保たれている機構の解明が必要である。染色体が再構成される位置はランダムであるのかそれとも特異的配列があるのか。このようなDNAレベルでの研究が第2番染色体以外についても行われてゆき、ヒトと他の霊長類の染色体の対応関係が今後さらに明確になるとおもわれる。
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