ヒト・ゲノム由来の遺伝子・DNAクローンを蛍光標識し、それを近縁のチンパンジーの染色体上の塩基配列相同部位にハイブリダイズさせて、染色体の対応関係を調べるのが、本研究の目的である。第1年度目には、ヒトの第6番、第2番染色体由来のコスミド・クローンのヒト染色体上の位置を詳細に決定し、基礎データを作成した。チンパンジーは、ヒトの染色体が極めて類似しているが、唯一、顕著な違いがヒト第2番染色体に対応する染色体である。チンパンジーにおいては、第12、13番染色体がヒト第2番に対応しており、他の染色体については、両種間で1体1に対応することと大きな対比をなす。そこで、第2年度目には、ヒト第2番染色体全域について代表的なバンドからクローンを選択し、これをチンパンジー染色体にハイブリダイズさせた。これにより、第12、13両染色体が、互いの短腕部で直列融合した対応関係にあることが確認できたので、次に、融合部にあたる領域(q12-q14)のコスミド・クローンの両種での詳細な配列を決めた。合計約40個のコスミド・クローンの高精度マップを作成し、比較した結果、ヒト第2番染色体は、チンパンジーの第12、13番染色体が短腕の端部で単純直列に融合し、その領域ではゲノム構成が保存されていることが明かになった。しかし、チンパンジーの両染色体の端部には、種特異的反復配列があり、これはヒト第2番染色体融合領域には見い出せないので、両種が共通祖先から分岐した後に、チンパンジー染色体において生じ増幅した反復配列と考えられる。当初、この領域は染色体再構成時に複数の構造変化が生じたものと予想していたが、意外に保存的であることがわかった。
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