本研究の目的は、熱帯降雨林に住む民族が低身長になるメカニズムを、環境への適応を踏まえて、細胞・分子レベルにおいて明らかにすることで、まず、血中IGF-I・成長ホルモン結合タンパク量に関する民族差の有無を明らかにし、次に、IGF-I産生能は遺伝的に規定されているか、そこには民族差が存在するかを調べ、環境に対応した遺伝的適応の例となりうるかを検討することとした。 血中IGF-Iの測定値についてみると、アエタで200ng/mlを越したものは35例中わずか2例に過ぎず大半は40ng/mlから190ng/mlの間の値を示していた。アエタの値は、サカイ族で概ね200ng/mlから400ng/ml程度であったのと比べても低く、これからピグミーほど顕著ではないにしても、アエタの低身長という現象にIGF-Iが関わっている可能性が示唆された。 細胞株を用いたIGF-I産生能については、樹立したGH感受性B細胞株を用い、GH刺激培養下における細胞の動態、及び、IGF-I産生能の比較をおこなった。GH抵抗性小人症患児を例に、GH添加培養後の細胞増殖の推移を調べた。コントロールではGH添加により細胞数が増しているのに対し、患児では変化が見られなかった。また、細胞質内のタンパクをSDS-PAGEにかけたところ、一部の株で、GHを100ng/ml添加、48時間経ったもので20K前後のタンパクの発現パタンが異なっていた。培養上清中に放出されているIGF-Iについては、その濃度がきわめて低く濃縮等の操作をおこなっているが顕著な差は見いだされていない。
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