研究概要 |
長年月にわたり個体識別のもとに継続研究の行われているチンパンジー(ギニア・ボッソウ)とニホンザル(高崎山)の各1個体群を対象に人口学的パラメータの変化と社会行動の変化を調べた。 1.人為的餌付けのほとんど行われていない野生チンパンジーにおいて、35超歳の雌の活動性は必ずしも低くない。しかし、日常的に離合集散し単独行動の多いチンパンジー集団において、老齢雌は単独で広範囲を移動することが少ない。活動力低下を集団(パーティ)への高い依存度によって補っている可能性がある。年齢別出産率は10〜13歳の初産から約10年で最高に達し、その後僅かに低下する。40歳を過ぎるまで出産を続けるが、40超歳での出産では初期死亡が多い。しかし少なくともこの集団では、繁殖年齢はこれまで考えられていたよりも長いことが分かった。 2.雄は40歳を越えて2,3年してから下位の若い雄と順位が入れ替わった。この集団では東アフリカの集団と異なり、若い雄は成熟前にほとんど消失し、優位雄が30歳代末頃に成熟した雄だけが集団に居残って集団を継承する、ゴリラ型であることが示唆された。雌雄ともに約40歳が高活動の限界であることを示した。 3.ニホンザル餌付け集団で観察されるかぎり、20超歳の雌の活動性は必ずしも低くはなく、孤立的で社会性が低いとは限らない。老歳雌は自ら他個体と社会関係を持とうとしなくても、多数の他個体(主として雌)が老歳雌と関係を持とうと接近したり毛づくろをする(与える)ことが多い。年齢別出産率は15歳を越えてもあまり低下せず、22,3歳を越えてから急速に低下する。 すなわち、両種とも老化が行動や出産に表面化するのは、限界点を越えてから急速に起こることが示唆された。今後は統計的検定にたえる量の資料を積む必要がある。
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