平成8年度は、昨年までの研究で、高温超伝導体における磁束格子融解一次相転移の存在が明らかになったことからBi_2Sr_2CaCu_2O_yの融解転移に伴う磁束ダイナミクスの変化に着目した実験をおこなった。微少ホール素子を用いた高感度局所磁化測定システムを用いて、さまざまな輸送電流下で磁化と抵抗率の同時測定を行い、融解転移は輸送電流に無関係であることを明らかにすると共に、磁束液体相でも抵抗率が非線型な振る舞いを示すことを初めて見出した。この非線型な振る舞いは、磁束液体相でもピンニングが効いていることを示しており、特に、高磁場での線形領域での抵抗率の振る舞いは、高粘度の磁束液体に対するピン止めの理論とよく符合することを明らかにした。これらの抵抗率の振る舞いはYBa_2Cu_3O_yのそれとは定性的に異なるが、その原因をピン密度と磁束の本数との関係から議論した。さらに、ホール素子からの信号を直接FFT解析することによって、局所的な磁束密度の揺らぎ(雑音)を輸送電流、磁場、温度の関数として詳細に調べ、電流印加時に転移磁場近傍で磁束系の塑性変形に伴うと思われる広帯域雑音を観測した。ある条件では、この雑音は磁束液体相でも観測され、先の液体相におけるピン止めの存在と矛盾しない。更に、電流に強く依存する狭帯域雑音を見出したが、その起因は現在考察中である。また、Josephsonプラズマの観測による磁束の層間結合の研究も行った。これらの様々な測定手法が本研究で実用化されたことも成果の一つである。今後、これらの組み合わせによって、磁束融解と磁束ダイナミクスとの関係を更に研究していく予定である。
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