本研究は、n型のペリレン顔料薄膜において我々が発見した、1万倍にも達する光電流増倍現象の機構の詳細な解明を行い、増倍特性を自由に制御する指針を得て、有機高感度光センサーデバイスへの応用可能性を示す目的で行ったものである。 この光電流増倍現象は、金属電極近傍のキャリヤトラップへの光生成ホールの蓄積によって、金属/有機界面に電界が集中し、電極からのトンネリング電子注入が誘起されたため(光誘起電子注入機構)起こる。デバイスの高速応答を実現するには、増倍特性をほぼ決定するキャリヤトラップの本質を解明する必要がある。今回まず、トラップからのキャリヤ解放による熱刺激電流(TSC)測定により、トラップのエネルギー深さ、濃度を検討した。その結果、通常の不純物等による電子的トラップでは、TSCの結果を説明できないことが分かった。そこで、増倍を引き起こすトラップの候補として、金属/顔料薄膜界面に存在する分子サイズの行き止まり構造にキャリヤが捕獲されるという構造トラップモデルを提出した。さらに、顔料薄膜の結晶化度及び金属電極の堆積方法と増倍特性との相関を検討した結果、界面の構造と増倍との深さ関係が明確に観測され、構造トラップの実在をほぼ実証できた。以上の結果から、界面の構造制御によって増倍特性を自在にコントロールできることが明らかになった。 増倍効果を引き起こす分子サイズの構造トラップは、今回我々が提出した全く新しい概念である。これは、有機薄膜表面の分子配列とデバイス特性が密接に関係するという、これまでに例のない、基礎的に重要な問題を提起しており、有機材料のエレクトロニクスへの応用に不可欠な、有機薄膜への電荷注入という問題の解決の端緒になると考えている。
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