光源に回転対陰極形の強力X線源を使った「超高真空表面X線回折装置」に高温試料ホルダー、膜厚計、蒸着ポートを装着し、この装置を使った小角X線散乱による成長表面の研究を行った。 超高真空内のKCl単結晶清浄表面にX線を微小角で照射し、KCl単結晶清浄表面の表面ラフネスの結晶温度依存を、小角散乱したX線の強度分布により解析した。また、超高真空中での多結晶銀表面の表面荒さを微小角X線散乱によって評価した。鏡面反射X線のピーク形状から多結晶銀表面の表面荒さと結晶粒表面の傾き分布を解析した。 エピタキシャル成長中のPbSe (111)表面にX線を0.075°の微小角で入射させ、鏡面反射X線強度をその場観測した結果、PbSe (111)表面のLayer-by-layer成長に伴う散乱X線の強度振動が観察され、本装置のような回転対陰極X線源を使ったコンパクトな装置でも、微小角X線散乱によるエピタキシャル成長中の結晶表面のステップ密度変化の情報が得られることが分かった。この観測が出来たことは、今後、微小角X線散乱をRHEEDのように結晶成長表面のモニターとして普及させるきっかけとなると考えられる。 しかし、観測されたX線強度振動の振幅は小さく、統計誤差やシステムノイズに埋もれておりコンピュータでデータの平均化処理を行って始めて見える程度の大きさであった。回転対陰極X線源からの限られた強度のX線を使った場合、ある一つの角度の散乱X線の強度測定だけでは、X線強度信号の大きさはモニターとして利用するには不十分であることが分かった。そこで、今後、上記の研究成果に基づき、新しく散乱X線強度の二次元角度分布をその場で観測することにより散乱X線強度分布の中に含まれる結晶表面からの情報信号と誤差を分離して、表面の構造変化に最も敏感な量を見いだす研究を進める予定である。
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