酸化シリコン上へ吸着した有機金属化合物ジメチルアルミニウムハイドライド(DMAH)にAlKαX線を照射すると、吸着種が分解する現象を見いだした。これは、アルミ薄膜形成のCVD初期過程をX線分光(XPS)により観測している際、XPS信号の時間的変化として観測された。 薄膜形成過程の診断の立場から、XPSの信号強度が変化して一定でないことは不便である。一方、最近光励起プロセスは光源にシンクロトロン放射光など短波長のハードフォトンの利用が始まろうとしている。その立場からは、XPS用のAlKα線は波長が短く(0.83nm)、単色光であり、かつ装置が簡単であるなどの利点があり、ハードフォトン励起プロセスの研究に適している。欠点は強度が放射光に比べると弱いことである。しかし、吸着種を分解するだけの強度があった訳である。 本研究では、まずAlXPS信号強度のDMAHの曝露量依存性から、吸着種が酸化シリコン表面上で一分子層を形成していることを確認した後、AlKαX線照射効果の基板温度依存性、曝露量依存性などについて、系統的に観測した。その結果、X線照射前の吸着種の種類により、分解の速さが変わることを見いだした。分解後の吸着種はアルミではなく、同定不可能なものであった。これは、分解生成物が表面の原子と反応したためと推定される。 分解機構は、X線による直接分解と基板から放出される二次電子による間接分解の二通りが考えられる。前者は分解断面積が小さく可能性が低く、後者では20eVを頂点として二次電子が観測されたことから、後者の可能性が高いと考えられる。
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