研究概要 |
1.金属表面による陽イオンの散乱過程について、電子系はイオン・表面間距離依存性を含むニューンズ・アンダーソン模型で記述し、イオンの並進運動は量子論的に扱うという、いわゆる軌道近似の枠を外しモデル計算を行った。その結果、散乱過程で中性化される粒子の運動エネルギー分布には、金属がフェルミ面を持つことに起因する多体効果(フェルミ面効果)による特異性が現れないことを明確に示した。 2.ポテンシャル・エネルギー曲面(PES)上のダイナミクスをカップルド・チャンネル法で追跡し、金属表面での水素分子の解離吸着に対する回転励起の影響を調べた。その結果、PESの分子配向依存性が原因で次の2つの効果の現れることがわかった。すなわち、分子はその配向を変化させ、PESの低いところに沿って運動(舵取り効果,steering effect)しようとするが、分子の持つ回転エネルギーが大きくなると、このような運動が妨げられる。このため、回転エネルギーが大きくなると吸着しにくくなる。一方、表面近傍での分子結合距離の増加に伴い、回転エネルギーは効果的に並進エネルギーに変換される(エネルギー移動の効果、energy transfer effect)。このため、分子の持つ回転エネルギーが大きくなると、この変換により並進エネルギーが増加するため、分子は活性化障壁を越えて吸着しやすくなる。これらの相反する効果のために、回転エネルギーが比較的低い領域では、回転エネルギーの増加につれて吸着確率は減少し、回転エネルギーが比較的高い領域では吸着確率は増加する。
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