本研究は、II-VI族半導体量子井戸構造における励起子発光のダイナミクスが井戸幅、バンドオフセット、励起密度、温度等の条件によりどのように変化するかを評価し、励起子の局在化、励起子の多体効果に基づく発光遷移過程に関する基礎物性評価を行うことを目的とする。以下に、本年度の研究で得られた結果を示す。 1.2チャンバー分子線エピタキシ-(MBE)法によりn^+-GaAs基板上に一旦n-GaAsバッファ層を成長させ、その上にZnSeベースの多層構造を成長させることで原子層レベルで平坦で高品質な界面を形成させる技術を開発した。この事により、非輻射再結合中心濃度を低減することに成功した。 2.時間分解フォトルミネッセンス測定により、ZnCdSe/ZnSSeおよびZnSe/ZnMgSSe量子井戸構造において混晶効果や量子井戸界面のゆらぎによりよって誘起される励起子発光の局在化過程を評価した。高励起下に励起子分子発光に基づいて生ずる早い輻射再結合過程を初めて観測した。これらの発光の輻射再結合寿命は、約6〜30psと非常に小さく、巨大振動子強度が実現されているものと予想される。これらの特性は、レーザ発振の低しきい値化や励起子の非線型性を利用した光変調素子の応用上重要であり将来の応用が期待される。 3.擬一次元(量子細線)、擬零次元系(量子箱)が実現されれば、室温における励起子効果は非常に大きくなるものと期待される。その試みとして、励起子、励起子分子結合エネルギーの理論計算を行うとともに(110)へき開面上への成長によるT字型量子細線構造の作製に関する基礎成長条件を検討した。
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