研究概要 |
希ガス液体は放射線検出器として電離,発光ともに優れた性質を有しているが,両者を同時に利用すればさらに優れた検出器となることが原理的に示されている。その方法の一つが光電離検出器であり、希ガス分子の発した光子が,少量添加されている分子に吸収されこれを電離することで,入射エネルギーを有効に電離信号に変換する。このような希ガス液体光電離検出器を実用化する場合の重要な要素の一つが検出特性の安定性であり,本研究では希ガス液体光電離検出器の時間に対する安定性を実験的に測定した。 アレンを添加した液体アルゴンでは,60時間以上にわたって測定し,時間とともに収集電荷量が変化した。しかし電荷量の絶対値が減少するが,純粋液体アルゴンの値より下がることはなく,時間とともにこれに漸近する。すなわち添加したアレン濃度が時間とともに減少し,光電離による電荷量の増加分がなくなることを意味する。一方,異なる電子移動距離に対する測定から,時間とともに減衰長が大きくなることがわかり,電気陰性度の大きい不純物の量が減少していることを意味している。これらより,この電離箱では,液体アルゴンに混入している物質の有効な量が時間とともに減少していると考えられる。 トリメチアミン(TMA)を添加した液体キセノンでは,当初はTMAに含まれる電気陰性度の大きい不純物の検出器壁からの離脱による性能の劣化が見られたが,TMAの純化温度と電離箱の動作温度をともに-110℃とすることによって50時間以上にわたって誤差の範囲内で性能が変わらないことがわかった。 本研究の結果により,希ガス液体光電離検出器では添加した物質の有効濃度の変化により時間的変化を示す場合があるが,事前に十分に純化しておくこと,動作温度や冷却方法に留意することにより,実用的に必要な安定性が得られるとの結論を得た。
|