研究概要 |
平成8年度は,平成7年度に続く残りの申請内容を遂行し,主に以下の研究成果を得た. 1)PEEK樹脂を用いた一方向性強化材(PEEK材)の平滑試験片に対して,室温と高温(100℃)で非主軸静的引張試験(繊維配向角:0,15,30,45,60,90°)を行い,樹脂延性の違いが一方向強化材の静的変形・破壊挙動に与える影響を調べた.PEEK材は,室温および100℃のいずれにおいても応力-ひずみ関係の非線形性が大きく、高い靭性を示した.温度を室温から100℃に上げてもPEEK材の破壊強度と縦弾性係数の低下は小さく,高温強度の高さは特筆に値する. 2)PEEK材の平滑試験片に対して,100℃における非主軸疲労強度(繊維配向角:0,15,30,45,60,90°)を調べた.打ち切り繰り返し数(10^<6A>)までの範囲において,いずれの繊維配向角についても,PEEK材のS-N曲線は直線で近似することができた.非主軸疲労強度は繊維配向角が大きくなるにつれて急激に低下した.非主軸疲労データは,ひずみ変動幅と破断繰り返し数を用いて整理すると,繊維破壊とマトリックス破壊に対応する2つのグループに明瞭に分かれた. 3)繊維強化複合材料に対して提案されたHashinモデルを取り上げ、PEEK材に対する予測寿命と実験結果を比較した.全体的に見た場合,HashinモデルはPEEK材の非主軸疲労強度を定性的に予測することができる.しかし,一部の繊維配向角について,予測値と実験値が定量的に一致しない場合が認められた.この原因として,Hashinモデルにおける損傷変数と実際の疲労損傷の対応が充分には明確でないこと,繊維およびマトリックス内の局所的で不均一なひずみ場と応力場が考慮されていないこと等が考えられる.この結果は,マイクロメカニックスに基づいて一層精密な解析モデルを開発することの重要性を示唆するものである. 4)Polyimide材(前年度試験終了済み)について,樹脂延性の高さが複合材の性能および力学的挙動に十分に反映されなかった原因を明らかにするため,断面の光学顕微鏡写真観察を行った.この結果,繊維分布の不均一による微視的な構造欠陥(製造欠陥)に起因することを突き止めた. 5)本申請研究から得られた全ての試験結果を比較し,樹脂延性の影響を総合的に検討した.
|