比強度、比剛性に優れる繊維強化プラスチック(FRP)材を厚さ方向に積層した場合に、横(厚さ)方向せん断によってしばしば破壊するが、実測が困難なため、FRP材の横せん断特性ほとんど明らかにされていない。本研究で考案した改良型の電子工学式非接触変位計を用いて、今まで測定されなかった横方向のせん断ひずみを求め、静的負荷を受けるCFRP積層材の横せん断特性を明らかにし、次に示す研究成果を得た。 (1)一方向カーボン繊維強化プラスチック(CFRP)材の繊維配向角が変化した場合の横せん断弾性係数の実験値と計算値は良く一致し、これより0°材と90°材の横せん断弾性係数から、任意の繊維配向角を有する一方向CFRP材の横せん断弾性係数が算出できることを示した。 (2)CFRP材を用いたクロスプライ材と疑似等方性材の横せん断弾性係数の実験値と積層理論による計算値は良く一致し、これにより積層理論を用いて、任意の積層構成を有するCFRP対称積層材の横せん断弾性係数が算出できることを明らかにした。 (3)従来、横方向せん断強度だけはショートビーム実験により得られていたが、本研究で初めて繊維配向角の変化に対する横せん断破壊時のひずみの値を明らかにすることができた。 (4)繊維配向角が増えるに従い破壊時の荷重は減少し、15°までは横せん断によって破壊し、40°以上の角度の場合は曲げによって破壊し、30°付近では両破壊モードが混在する。この結果は、破壊後の超音波探傷結果とも一致した。したがって、ショートビーム実験で求められるCFRP一方向材の横せん断強度は、配向角が30°以内に限定される。 (5)CFRP材の繊維配向角が30°以上になると一方向材のクロスエラスティシティ効果によるねじり変形と曲げ変形の混合モードが大きくなる。このことは3次元有限要素法の解析結果とも一致し、繊維配向角が大きくなる場合に、ショートビーム法が適さないことが解析的にも明らかにされた。 (6)従来使用されている積層材の横方向等方性の妥当性について、実験的な見地から初めて検討を加えた。今後は、CFRP材で得た知見をガラス繊維強化プラスチック(GFRP)材やアラミド繊維強化プラスチック(AFRP)材などで確認することと動的負荷の下での各種FRP材の横せん断特性を明らかにする。
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