セラミックスの疲労き裂進展を説明する機構として、Grain-bridging DegradationモデルとCrack resisting-reactivatingモデルの2つが提案されているが、これまで両モデルとも実際の発現に対する直接的な実験的証拠を欠いていた。荷重繰り返しは負荷過程と除荷過程とから成るが、上述の2モデルはき裂進展時期を異にする。したがって負荷時と除荷時のき裂挙動を分離して解析できれば各モデルの妥当性の有無が明確化される。本研究ではセラミックスの疲労き裂進展挙動を組織因子と負荷条件の観点から体系的に整理した上で、導電性被膜電位差法(被膜に微小電流を流し、き裂進展による抵抗変化に基づく電位差変化を測定する方法)を用いて損傷累積機構の解明を図った。 まずアルミナおよび窒化ケイ素セラミックスの疲労き裂進展速度に関する基礎データの測定と微小き裂進展挙動の直接測定のための導電性被爆電位差法の最適条件(物質の種類と膜厚条件)の把握を行った結果、静疲労損傷の少ない窒化ケイ素を本電位差法実験の供試材とし、また導電性物質としては、a)供試材との密着性やb)き裂開口に伴い被膜も開口することの2点において最も優れたNiを選定し、さらに電流値の最適値を決定した。これらの条件により10Hz程度の高い周波数での繰り返し荷重下でも負荷過程と除荷過程でのき裂進展量を分離測定可能となった。 き裂進展は負荷、除荷の両過程で生ずるが、両者の比率は周波数と応力拡大係数に依存することが判明した。すなわち、周波数が低いほど、また応力拡大係数が大きい(高き裂進展速度)ほど除荷過程のき裂進展率が少なくなる傾向が認められ、これは環境効果による静疲労損傷の割合が増加するためと推定された。環境効果が抑制された条件下では除荷過程におけるき裂進展量が全進展量の数十%に達する場合もあり、繰り返し荷重下でのCrack resisting-reactivating機構の発現が実証された。
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