研究概要 |
信頼性設計のための安全性尺度の比較評価に寄与するために,平成8年度においては以下の2点の研究実績を残した. (1)構造システムの信頼性解析のために,上界と下界を用いた精度のよい予測式を与えるとともに,計算時間の削減をはかった条件付安全性指標の計算アルゴリズムを提案した.このアルゴリズムの特徴は,限界状態関数の間の相関計数行列をコレスキー分解する点にある.この試みにより,限界状態関数の間の相関関係を取り扱った構造システムの高次積事象確率の予測近似式を簡単な形式で記述することに成功した.この結果,多重積分領域が単積分の積として近似できるため,構造システム全体の破損確率の上界と下界の近似評価における効果的な計算法が提案された.このことより,確率変量間の相関とシステムとしての限界状態関数間の相関の両者を対応させることが,構造システムの高次破損確率評価においては特に重要であることを検証できた. (2)安全性指標の統計的不確定性と時間依存性を考察し,その特性を経済性評価に利用する方法を提案した.このとき,構造システムの破損損失費用だけでなく,設計や施行時の過失に関する罰金費用も加味した設計最適化の規範を示し得た.その結果,設計値の信頼水準を用いて過失による損失額の基準を許容差設計の概念により設定できることを立証した.また,このことを用いて構造システムの期待総費用の定式化が,破損損失と過失損失の両者の組み合わせによっては,初期建設費用,破損損失費用,信頼性試験費用,定期保守費用,罰金費用などの各因子の組み合わせが変わることを事例解析に基づいて示した.さらに,構造システムをライフサイクル全域において評価するときに,耐用期間と供用期間を考慮して,この期間内の資本利率ならびに物価変動率を用いた経済変動の時間的効果を加味した定式化も示した.
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