セラミック溶射皮膜の密着強度は基材粗面特性に著しく依存する。これまで基材断面のフラクタル次元を評価するシステムを確立し、これと密着強度との関係を明らかにした。しかし、密着強度は基材の断面特性のみならず、粗面の平面特性にも依存する。本プロジェクトでは、粒子の衝突角度を45〜90゚の範囲で変化させたブラスト加工による粗面を形成し、スリットアイランド(SIA)法によってフラクタル次元を測定した。SIA法は粗面をある高さでスライスし、そこに出現する島の面積と周囲長から次元を算出する。そのため、粗面の高さ方向の情報が必要であるが、本研究ではレーザー顕微鏡画像が256階調の濃淡にて高さデータを有することから、画像処理によって高さの値を抽出した。また、レーザ顕微鏡はレーザ光の反射による共焦点画像から構成されるが、ブラスト粗面のようなランダム性の強い複雑粗面では反射光が得られない点が存在し、この点では画像中にノイズが導入されてしまう。本方法ではこのノイズ除去のため画像のピクセルごとにフィルターを通して画像を再構築した。4種類のフィルター強度で、フラクタル次元を測定し、ブラスト角度とフラクタル次元との関係を確立した。フラクタル次元はブラスト角45゚では1.54と低いが、70゚では1.69と増加し、90゚に向かってわずかな減少となる。 ブラスト粗面にAl_2O_3をプラズマ溶射し、密着強度を測定して、ブラスト角と密着強度との関係を求めた。両者の関係は、ブラスト角とフラクタル次元との関係に近似的に一致した。この事実により溶射皮膜の密着強度は、基材表面のフラクタル性に完全に依存する結果を得た。また、ブラスト粗面のフラクタル次元は、鋼の破面の次元の1.35〜1.512より高いことが判明した。これらの結果より、皮膜の密着強度評価は基材表面フラクタル次元で行うべきであり、その手法を確立できた。
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