研究概要 |
すべり案内面の微小および過渡的運動領域における摩擦特性の解明を目的に,一定低速往復運動における摺動体変位と摩擦力の関係を,質量150kgのスライダと高い位置決め分解能と高い駆動剛性を持つ超精密位置決め機構から成る実験装置を用いて測定した.摺動体運動速度を50nm/minから5μm/minとし,連続運動時の特性に加えて数値制御運動の基礎となる微小ステップ状運動時の特性を調べた.ステップ状運動時のスッテプサイズは1nmから1000nmとした.得られた成果は次の通りである. 1.従来明確にされていなかった運動反転後の“変位-摩擦力特性"を明らかにした.スライダと案内面との相対運動の運動方向が反転するとき、反転直後の変位の増大に伴って摩擦力が増大し,その等価ばね定数が数N/nmにもおよぶ数百ナノメータの領域-過渡領域が反転直後に存在する. 2.過渡領域の後に,変位が増大しても摩擦力がほぼ一定の領域-定常領域が存在する. 3.数値制御運動においては,摩擦力が連続運動における定常領域の摩擦力より著しく小さな値や,負の値を取り得ることを明らかにした. 4.上記の特異な摩擦挙動は,過渡領域を内包するすべり案内面の“変位-摩擦力特性"と、微小ステップ状運動の過渡状態に発生するオーバーシュートや振動的運動との関連によって起こることを明らかにした.この特異な摩擦挙動は,精密工作機械における運動方向の反転や,フィードバック制御機能によるオーバーシュートの修正運動などを含む実働状態での運動時に発生する可能性がある. 5.すべり案内面の過渡領域と定常領域における変位-摩擦力特性の大きな違いは,フィードバック制御系から見た負荷特性の大きな違いとなり,精密加工機械などの精密位置決め制御機構の制御性に大きな影響を与え、切り込み運動などの精密な送り運動に悪い影響を及ぼす可能性があることを明らかにした.
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