研究概要 |
本研究は,1μm以下の微視的領域における送りねじの変位挙動に着目し,種々の条件によって微視的変位挙動がどのように変化するかについて実験的に明かにするとともに,その動的なモデルを確立することを目的する.新たに設計製作した実験装置は,ねじ軸固定・ナット回転型構造であり,ナットに対する回転トルクをソレノイドにより非接触で印加し,ナットの回転角度と軸方向変位を静電容量型非接触変位計により測定した.実験は,予圧を任意に設定可能な定圧予圧方式と予圧が一定の定位置予圧方式の2方式のボールねじについて行った. ナットに対してトルクを階段状に準静的に印加する実験を行ったところ,微視的領域において印加トルクと軸方向変位との間に非線形なばね特性が認められ,そのような微視的範囲内においてもナットの回転角度と軸方向変位の間の基本的関係はねじのリ-ドにより決定されていることが初めて明らかとなった.また,トルクを正弦波状に正負対称に印加する実験を行ったところ,予圧の増加とともにばね特性の線形性が向上し,ばね性を示すトルク範囲とばね定数が増大していくこと,さらにばね特性が示すヒステリシスはトルク変化の速度の影響をほとんど受けず,粘性の効果はわずかであることが明らかとなった. 以上の実験結果を考察し,非線形ばね特性のヒステリシスは,ばね定数の異なる2つの線形領域の履歴的結合によって構成されるていることを示した.そこでこの微視的特性を記述するために2本のばね要素と摩擦要素を用いた力学モデルを提案し,本実験で使用した試験ボールねじのパラメータを実験結果から同定した.さらに同定したパラメータからこのモデルに対応する固有振動数を求めたところ,インパルス加振による動的応答試験の結果とほぼ一致し,提案した力学モデルの有効性を検証することができた.
|