超音速流よう素レーザーにおいては、励起酸素発生器で水蒸気が副産物として生成される。水蒸気は励起よう素分子失活の効率的な衝突対であるため、水蒸気トラップによって除去されるが、一部は水蒸気トラップを通過して超音速ノズルに流入する。このとき、超音速膨張によって気体の温度は低下するので、水蒸気は凝縮する可能性がある。しかしながら、これまで水蒸気凝縮のレーザー性能におよぼす効果は検討されていなかった。そこで、本研究においては準一次元または2次元の流体力学方程式/化学反応式/凝縮の式を連立させて数値的に解き、水蒸気凝縮が小信号利得係数や最大抽出可能なレーザー出力に与える効果を解明した。また、従来の凝縮モデルを改良し、生成される水滴径の分布を求め、水滴によるレーザー・ビームの散乱効果についても検討を加えた。 本数値シミュレーションの結果、まず超音速膨張によって水蒸気は明らかに凝縮することが明らかとなった。凝縮の結果、励起よう素原子失活の有効な衝突対である水蒸気は減少し、これは超音速流よう素レーザーの性能を向上させるように作用する。一方、水蒸気凝縮によって、潜熱が流れ中に放出される。超音速流れは加熱されることによって温度は上昇し、マッハ数は低下する。これはレーザーの性能を低下させる方向に作用する。本数値シミュレーションの結果、これらの相反する効果は総合的には小信号利得係数や最大抽出可能出力を低下させることが明らかにされた。また、凝縮によって生成される水滴の直径はレーザーの波長よりはるかに小さいことも示された。したがって、水滴はレイリー散乱を発生させるが、これによる光の損失係数は小信号利得係数と比較して無視できる程度のものであることが明らかになった。
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