本研究では、気体流の温度や密度計測法としてよく知られている、レーザー誘起蛍光法(LIF)とコヒーレント・アンチストークス・ラマン分光法(CARS)の両方の計測法の利点を合わせ持つ新しい気体流の計測法の開発を目的とし、実験装置の改善と基礎研究を行ってきた。常温で可視域に広い吸収領域を有するヨウ素蒸気を光非線形媒質として、縮退四光波混合(DFWM:Degenerate Four Wave Mixing)を行い、入射レーザー光の位相共役光として生じる信号光の発生を確認した。また、レーザー波長をスキャンすることにより信号光スペクトルを検出するシステムを構成し、608nm近傍と586nm近傍の2つの波長領域において、スペクトルを測定した。586nm近傍では、より強い信号強度が得られ、またスペクトルに現れる遷移線の間隔も広いため、検出し易いことが明らかとなった。観測したスペクトルを2準位モデルを仮定した理論式から計算されるスペクトルと比較した結果、良好な一致が得られた。DFWMスペクトルは、温度を変化させることにより形状が変化し、理論スペクトルと測定スペクトルの形状の比較から気体の温度計測が可能であることを示した。しかし、飽和強度以下でポンプ光強度を変化させるとスペクトル形状が相対的に変化し、一方、飽和強度を越える強いレーザー強度ではその相対的形状変化がほとんど無くなることも確認された。これは、スペクトル形状から気体の温度計測を行う場合に、用いるポンプ光強度に注意をする必要があることを示している。また、バッファガスの圧力を増加させて、信号強度の変化を観測すると、レーザー光波長が608nm近傍では熱的回折格子に起因すると考えられる信号光の増加が観測されたが、レーザー光波長が586nm近傍においては、信号光の増加現象は観測されず、逆に信号強度は減少した。この原因については、今後調査していく必要がある。
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