超臨界噴霧燃焼の特徴は、蒸発過程で現れる噴射液および微粒化された霧滴の表面近傍で起きる特異な現象によってもたらされるものであり、その解明には噴射液および液滴が遭遇する流体力学的条件下での近臨界界面の挙動を知ることが第一である。本研究では先の研究で得た単一液滴の蒸発特性の数値計算結果に新しい解釈を加えて、未開拓の問題に挑戦した。すなわち、(1)蒸発過程の途中で表面を失う遷移蒸発域の特徴を解明し、(a)気化時間が短く、液体燃料の温度緩和時間と同程度である(b)連続的相変化状態への遷移が起きるには液体の内部の加熱が不可欠である(c)相平衡の拘束からの解放によって燃料の拡散能が大幅に増す(d)飛行液滴では表面張力の消失によって変形が顕著になり、接触面積を拡大して混合が飛躍的に促進される(e)霧滴では容器内ガスの固有振動と共鳴して振動的蒸発を起こす可能性があることを示した。また、(2)超臨界雰囲気中に噴射された液体燃料の微粒化・気化・混合特性に対して熱力学特性と流体力学特性の強いカプリングが及ぼす効果を線形安定性解析とTVD数値計算によって調べ、(a)高温高圧下では表面張力が低下してレーリーの不安定性が効く液柱寸法が縮小するので、微粒化のためにはノズル近傍で高波数の空力的不安定波が卓越していることが重要である(b)遷移蒸発域で不安定性が極大化する。これには、表面張力と蒸発に関連した密度変化が重要な役割を果たしている(c)密度の高い噴射液の音速の方が周囲の気体の音速より低くなるので、近臨界流体の計算では圧縮性の考慮が不可欠であること示した。 現在よく用いられている数値シミュレータに組み込まれている構成式はいずれも上記の特徴を捉えたものでない。また、近臨界流体ジェットは、マッハ数とレイノルズ数が共に大きな値を取り得る新しいタイプの流れである。
|