これまでに報告例のない、火花点火初期におけるOH活性種生成の動向を実験的に調べた。混合気には4.7Vo1%のプロパン-空気を、点火火花は火炎核の成長期間に発光を伴わない、放電時間が1μs以下の純粋な容量火花を用いた。電極には直径0.5mmのステンレス鋼製針端電極を用い、定容容器中心部で火花間隙を0.8mmとした。OH活性種の検出は、波長306.4nmにおけるOHの自発光強度を、二次元およびスポット的に行った。OH活性種の二次元的な挙動を調べる場合には、中心波長306nmの干渉フィルタを通し、イメージインテンシファイアを前置した超高速度カメラにより、自発光の二次元像を記録した。この実験過程で、波長306nm近傍には火花自身の極めて強い自発光が認められたため、画像の記録は火花放電終了後とした。スポット測定では、ダブルモノクロメータと光電子増倍管を組み合わせ、放電経路中心から1.0および1.5mm離れた位置でOH自発光強度を計測した。この場合も火花自身の強い自発光の影響を避けるため、ゲート回路を用いて、放電終了後に測定開始すると共に、混合気中の発光強度と燃焼させない空気中での発光強度の差を求めてOH発光強度を評価した。以上の実験により、以下の知見が得られた。 1.OH自発光強度が最強である波長306.4nm近傍には、極めて強い放電火花自身のスペクトルが分布しており、この成分を除去しなければ、真のOH自発光強度を評価できない。 2.電極材料であるステンレス鋼(SUS304)の組成であるFe、Ni、Cr等が励起されることにより、波長306.4nm近傍に強いスペクトルが分布することが示唆された。 3.火花エネルギーを増大させるに従って、点火初期に生成されるOH生成量がほぼ比例して増加し、熱的効果と相まって初期火炎核の成長速度が増大するが、その効果は点火後3μs程度までであり、その後は火花エネルギーに関わらずほぼ一様な成長速度を示す。 OHの生成領域は火炎核の火炎面近傍であり、最高温領域である放電経路近傍ではあまり検出されない。また火花点火初期のOH生成量は自立火炎の火炎面で生成されるものと比較して、極めて多量である。
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