研究概要 |
本研究は、放射線照射された物質を加熱したときに発生する発光現象(熱蛍光;Thermoluminescence,TL)を用いて、その物質の生い立ちを推定する、熱蛍光法年代測定システムの研究開発である。熱蛍光(TL)量は、被爆した放射線に依存する線量依存性を有し、また、それは、加熱する際の上昇温度速度(単位時間あたりの上昇温度の割合)や、ある温度レベルを保持する時間と密接に関係する。従って、物質の加熱温度制御は、熱蛍光年代測定法における重要な因子となる。ところで、物質を加熱する加熱体としては、一般に電気抵抗体を利用したヒーターが用いられる。当然のことながら、電気抵抗体は温度に依存するため、入力を印加電圧、出力を温度としたときの入出力関係は非線形特性を有する。ここでは、まず、この非線形特性に有するヒーターの温度制御系を構築するために、種々のアドバンスド制御論を導入した。特に、非線形特性に対するロバスト制御系として注目されているH無限大最適制御と、実データを制御系に組み込むことによりシステムのモデル化誤差を吸収するモデル予測制御系を構築した。 また、TL発光量の測定では、その発光スペクトル情報を用いることにより新たな知見が生まれた。本年度の成果を以下に要約する。 1)性能向上をはかったTL年代測定用計測制御システムを用いて、新たな年代測定実験を行った。そして、過去の実験結果との相違を明らかにし、新たな計測・制御技術を構築した。 2)発光スペクトルの解析は、従来より広く用いられているスペクトルアナライザによる機械的処理と、ウェーブレットによる多重度解析を併用して行った。そして、解析されたスペクトル情報を年代測定アルゴリズムに反映させることが可能となった。
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