研究概要 |
放射線照射された鉱物を加熱するときに観察される発光現象は熱蛍光(Thermoluminescence,TL)と呼ばれる.TL量は被曝した放射線に依存する線量依存性を有する.近年,その性質を用いた物質の年代測定法はTL年代測定法として地質学,考古学や人類学の分野で注目されている. 本研究では,TL年代測定の研究推進に貢献することを目的とし,温度制御系の設計からTL測定に至るまでのTL年代測定用計測制御システムの研究開発を行った.そして,開発したシステムを用いて,第4世紀琉球石灰岩の絶対年代の同定を行った.我々がこの研究に着手したのは平成4年からであるが,最初に試料を一定温度で昇温する温度制御系の開発を行った.この制御方式は,近年,ロバスト制御系の設計法として注目されているH無限大制御を用いた.この制御系はH無限大制御の応用例のさきがけとして充分に満足のいく性能が発揮された.また,それらを拡張して,ディジタル式H無限大制御系も試み,より高精度な温度制御結果を得た.さらに,近年,注目を集めているモデル予測制御アルゴリズムを導入した最適制御系も構成し,そのロバスト性や定常特性に関し非常に良好な結果を得た.また,TL発光データから年代算出する際は,規範的データと我々が独自に行った実験結果を比較することにより種々のノウハウを蓄積することができた.特に,TL発光強度や波長のスペクトル情報は放射線蓄積量に対する重要なキ-ポイントであることが確認された.また,時間周波数解析の有力なツールであるウェーブレット変換も適用し,周波数のリアルタイム計測を行っているが,充分な解析結果が得られておらず,残された問題として今後研究を継続していく次第である. 以上のことより我々の技術が今後の年代測定法の発展に大いに寄与すると思われる.
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