研究概要 |
屋外に使用される有機絶縁材料は,様々な外的要因によって劣化を受けるが,その中でも公害の悪化等による酸性雨の影響は非常に大きいと思われる。本研究では,(1)酸性雨が電解液として作用した場合の有機絶縁材料の耐トラッキング性,(2)酸性雨により表面が劣化した試料の耐トラッキング性について検討を行った。以下にそれぞれの結果をまとめる。 (1)酸性雨が電解液として作用した場合 耐トラッキング性試験法はIEC Publication 587に従って行った。試験電圧は4.5kVとし,試料としてはポリプロピレン,ポリカーボネート,ABS樹脂,ポリスチレン,ポリエンカビニルを用いた。これらの試料に人工酸性雨溶液を電解液として流し,材料がトラッキング破壊に至るまでの時間について比較を行った。その結果,いずれの試料においても規定汚損液に比べ非常に短時間で破壊に至り,酸性雨は耐トラッキング性に非常に大きな影響を与えることが分かった。また,試験開始後30秒程度で試料表面に数百μmの亀裂が多数確認され,これは通常トラッキング破壊直前に試料表面に起こる現象であることから,人工酸性雨汚損液がトラッキング劣化現象を急速に加速していることを確認した。 (2)酸性雨により劣化した試料の耐トラッキング性 実験方法は(1)と同様であるが,汚損液には規定のものを用い,試料を(1)で用いたのと同様のものを20日間,45日間人工酸性雨中に浸漬し実験を行った。その結果,人工酸性雨に浸漬した全ての試料において耐トラッキング性の低下が認められた。また,人工酸性雨の影響は,表面の撥水性の低下およびクラックのような材料表面に生じる物理的損傷が中心であることを確認した。
|