機能性有機薄膜素子の実現のためには、高質量有機物質の高品質な膜形成技術が必要とされる。特に真空中のドライプロセスによる薄膜形成は、マイクロデバイス応用に有意義と考えられるが、従来の真空蒸着法で高分子量有機材料の薄膜を形成することは容易でない。そこで本研究では新規な手法であるイオン化蒸着法を用い、膜形成プロセスの観点から高分子量の有機薄膜を形成する手法を検討した。プロセス手法を大別すると、(1)材料を直接蒸着する方法、及び(2)蒸着過程で重合反応を伴うもの、に大別され、後者はさらに逐次重合反応を利用するものと、連鎖重合反応を利用するものに分類される。 (1)の材料を直接蒸着する手法では、モノマー材料では、ペリレンテトラカルボン酸二無水物、アルミニウムキノリノール錯体などの、有機半導体性や発光特性を持つ機能材料の薄膜を形成できること、これを用いて有機発光素子などのデバイスを作製できることを示した。ポリマー材料ではポリテトラフルオロエチレンを直接イオン化蒸着して、分子配向性や電気的絶縁特性に優れた高分子薄膜を作製できることが示された。 (2)の重合反応を伴う成膜は、モノマーを蒸着して基板表面で重合させて高分子薄膜を得る手法である。逐次重合型では、ジイソシアナ-トとジピペリジンの共蒸着によりるポリ尿素薄膜を得た。特にイオン化蒸着を用いることによって、双極子配向を制御することが可能となり、非線形光学効果や電気光学効果の発現に有効であることが見出された。一方の逐次重合型では、いくつかのビニル化合物を用い、通常の蒸着では重合しないがイオン化蒸着によって重合膜を得られることが示された。蒸着ビームの質量分析の結果、重合膜を得るためには、イオン化によって容易に分子がフラグメントを起す材料を用いるのが有効であることが見出された。
|