今年度は引き続き偏極スピン電子検出用のプローブ針の作製方法の改善を図ると共に、針作製のシミュレーション計算を行うことでプローブ作製プロセスの解析を行った。また、トンネル効果により流れる偏極スピン電子の偏極度による伝導率変化を調べるために、強磁性層としてNi-Fe層、絶縁層としてSi_3N_4を用いたサンドウィッチ構造によるトンネル電子型スピンバルブ素子の試作を行った。 微細パターンの形成には、基板上に2μm厚のOFPRを下部レジスト層として塗布し、その上にAl層を中間層として堆積し、その上に上部レジスト層を塗布して微細パターンの露光を行う三層レジスト法により行った。Al中間層をRFプラズマエッチングした後、O_2プラズマによるアッシング処理で下部レジスト層のエッチングを行い空洞構造を作製した。この空洞に対してスパッタ堆積を行うことにより針構造の作製ができる。この空洞構造の形状やスパッタ粒子の飛来方向等の条件によりプローブ形状が変わるので、モンテカルロ法を用いたスパッタ粒子堆積のシミュレーションプログラムを作成し、空洞構造やスパッタ粒子の飛来角度等の種々の条件をかえて計算した。その結果、空洞開口径と空洞深さのアスペクトレシオが高いほどプローブ針の先鋭度は高まるものの、開口部を塞ぐ形で膜堆積するため、成長速度が小さくなることなどが確認できた。 トンネル伝導する偏極スピン電子による伝導率変化をしらべるために、強磁性層としてNi-Fe層、絶縁層としてSi_3N_4を用いたサンドウィッチ構造の三層膜にFe-Mn反強磁性層による交換バイアス層を付与したスピンバルブ素子の試作を行った。この結果Fe-Mn(111)面配向が強くなるほど、交換バイアス磁界が大きくなり、良好なトンネル電子型スピンバルブ素子として動作することが確認できた。また膜堆積中に250Oeの磁界を印加することにより角形性の良好なヒステリシス特性を有するスピンバルブ素子となることがわかった。
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