1.成膜には、清浄なSi基板表面が必要なため、装置への基板搬入により基板表面が大気の汚れに汚染されないように、装置を改良した。即ち、現有装置にロードロック方式の試料交換室を設け、YSZ膜作製室を直接大気に戻さず、すばやく真空排気を行えるようにした。 2.計画当初では、Si基板をYSZ膜作製室に投入後、低圧の酸素雰囲気中で加熱して極薄の酸化膜を形成し、続いて極薄のZr+Y金属膜の堆積及び作製室中での金属膜の酸化という工程を数サイクル繰り返した後、YSZ膜を形成する予定であった。しかし、実用化を考えれば、プロセスの簡略化が必要となることから、サイクルを1回だけで、できるだけ良好な膜質を得る条件を検討した。その結果、以下の結論を得た。 (1)YSZ膜の結晶性の観点から、金属膜厚と堆積初期のSi酸化膜厚との間には、密接な関係があり、結晶性を良くするためには前者が増加すれば、後者も増加し、前者が減少すれば、後者も減少する必要があることがわっかた。また、最も最適な金属及び酸化膜厚はそれぞれ、04nm及び約1.8nmであることも分かった。 (2)YSZ膜の結晶性をより向上させるために、堆積初期のSi酸化膜厚の平坦性を改善した。従来、酸化膜を形成するために熱酸化だけで行ってきたが、今回は、沸騰した過酸化水素水にSi基板を浸し、化学的に酸化膜を形成後、熱酸化を行った。その結果、熱酸化だけのものは膜厚のばらつきが0.4‐0.5nmであったのに対し、過酸化水素水を用いたのもは、0.2nmと改善した。 (3)過酸化水素水を用いて酸化膜を形成した試料にYSZ膜を堆積したところ、X線回折測定におけるYSZ(200)におけるロッキング曲線の半値幅が、従来の堆積法の1.4から1.35程度と減少し、わずかではあるがYSZ膜の結晶性の改善が見られた。
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