研究概要 |
強誘電体薄膜におけるサイズ効果発現の機構を明らかにするために,強誘電性消失の臨界膜厚に近い薄膜の作製を試みた.基板として,ガラス及びSi(111)を用い,強誘電体薄膜の原料ターゲットとしてBaTiO_3(BT), PbTiO_3(PT), TiO_2, PbOの焼結体を用いて,レーザによるアブレーション実験を行った. 本年度は主にBTの成長を試みた.これは,微粒子の臨界粒径から推定される臨界膜厚がPTの12nmと比べてBTでは110nmと大きいので基板の影響を受けにくく,サイズ効果の検証に有利であると考えたからである.今回は,アブレーションが比較的容易と考えられる酸化物をターゲットとして用いた.BaOは大気中で不安定なため検討中である. アブレーションを行って得られたBT試料をSEM観察し,表面がμm以下の精度で平坦であることを確認した.さらに自動エリプソメータで膜厚分布を解析し,膜厚分布がcos^8θ(θ:入射角)で表され,アブレーションが非熱過程であることを明らかにした.得られた膜の誘電特性を測定し,相転移点をバルクのBTと比較した.バルクのキュリー点と比べて膜ではやや高温側にキャパシタンスのピークが現れ,予想と逆の傾向を示した.これは,膜内の歪みの影響であると考えられる. 8年度は,基板材料にMgO, SrTiO_3を加え,BT, PTを作製する.また,基板温度,酸化条件などの成長条件を変えて特性を調べる.さらに,7年度に購入したRHEED観察用CCDカメラを用いて原子尺度での製膜条件を明らかにする.得られた薄膜に対してX線回折,ラマン散乱法などによる構造解析および誘電特性の測定を行い,化学量論性を満たした良質の結晶性薄膜が得られる成長条件を決定して薄膜におけるサイズ効果の解明を目指す.
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