研究概要 |
特異な物性を示す人工格子膜は興味深い材料であり,研究が盛んであるが,現実の人工格子膜には欠陥,粒界,転位等が存在し,これらを含めた膜形成過程の解明とその物性が重要である.本研究では,異種原子間のひずみに着目し,実験的手法とシミュレーションを用いた理論的手法を複合してひずみ分布を定量的に把握する手法を確立し,さらに分子動力学法(MD法)により膜形成過程の解明を目的とした. 平成7年度は2体間ポテンシャルであるMorseポテンシャルを用いて, 1)膜成形成時の表面形態, 2)異種原子界面での格子緩和, 3)膜形成時の入射原子エネルギーと膜表面形態 についてシミュレーションを行い,実際に製膜した膜と対応関係を明らかにした. 平成8年度は,多体間ポテンシャルであるEmbedded Atom Method (EAM)ポテンシャルと前述の2体間ポテンシャルであるMorseポテンシャルの両方を用いて,Ni/Pd人工格子膜形成シミュレーションを行い,それぞれのポテンシャルの適用について以下のことを明らかにした. 1)2体間,多体間いずれのポテンシャルを用いても,NiおよびPd単層膜の成長様式や界面での相互拡散には,同様の入射原子エネルギー依存性が見られた. 2)Ni層内の面内平均ひずみ入射エネルギー依存性には,用いたポテンシャルにより相違が見られ,EAMポテンシャルを用いることにより,実験結果と対応が得られた. 3)EAMポテンシャルを用いたシミュレーションで,異種原子界面の相互拡散した原子層内の面内ひずみ分布は偏った分布を持ち,その特徴を解明した. 以上のように,上記2種類のポテンシャルを用いシミュレーションで,成長様式や界面での相互拡散等,製膜時の原子配置に関して有効な知見が得られるが,一方,ひずみ量の大きさは多体間ポテンシャルを用いる必要があることが解った.
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