トランジスタのエミッタに、ベースよりバンドギャップの広い材料を用いることにより、従来のトランジスタに比べベースの不純物濃度を高く設定でき、ベース抵抗を低減できる。これにより、素子の動作速度を高めることができる。このエミッタ材料として、非晶質SiCと微結晶Siを提案し、実際にこれらを組み合わせてトランジスタを試作した。まず、微結晶Siのみを用いると結晶成長が生じ、バンドギャップ差を作り出すことができず、低い電流増幅率しか得られなかった。そこで、まずSiC超薄膜を形成し、その上に微結晶Siを堆積したところ、従来の20〜30倍も大きい電流増幅率を持つものができた。しかし、エミッタ抵抗が大きく、高周波測定をしたところ、それによる遅延が比較的大きいことが判明した。このトランジスタの本質的な性能を発揮させるには、エミッタ抵抗を削減しなければならない。 次に、ベースのバンドギャップをエミッタのそれより狭くして、バンドギャップ差を作ることを検討した。Siよりバンドギャップの狭い材料としてSiGeを選択し、SiとGeをイオンビームでスパッタすることによりそれを作製した。SiにGeが加わるとエピタキシャル温度が低下し、Si_<0.75>Ge_<0.25>では400℃程度の低温でもエピタキシャル成長が可能であることが分かった。 さらにECR(電子サイクロトロン共鳴)法を用いて水素プラズマを励起し、それにSiH_4ガスを接触分解させ、Siのエピタキシャル成長を行った。この水素プラズマは、SiH_4ガスの分解だけでなく、堆積したSi膜の一部をエッチングしていることおよびその作用がエピタキシャル成長を促進していることや過度のエッチングは結晶欠陥を引き起こすことが明らかになった。一方、適当な堆積条件を設定すれば、SiO_2基板上にはSi膜は成長せず、Si基板のみにSiのエピタキシャル成長を起こすことができる、いわゆる選択エピタキシャル成長が可能であることが見いだされた。
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