磁気ディスクに用いられる垂直磁気異方性記録層の作製法について、従来とは異なる新しい作成法の可能性について検討した。垂直磁気記録媒体の磁性層であるCo-Cr垂直磁気異方性膜は従来、平行平板型のスパッタ装置で作製されていた。これに対して本研究では、電子サイクロトロン共鳴マイクロ波プラズマを用いたスパッタ成膜法(ECRスパッタ法)を用いた方法を新たに導入した。本法は、プラズマ生成と成膜プロセスを独立に制御でき、しかも成膜中に基板へプラズマイオンを照射できるという、従来の平行平板型のスパッタ法にない特徴をもっている。これらを最適化することで、従来法よりもいっそう高密度記録に適した記録媒体を作製できる可能性がある。 従来法で作製したCo-Cr膜では、基板上に堆積した約20nm程度の厚みの部分には、結晶配向の良くないいわゆる初期成長層が存在してしまい、これが高密度記録を妨げる原因となっていた。ところがECRスパッタ法ではこの初期層を無くすことに成功し、堆積初期から結晶学的特性および磁気特性に優れたCo-Cr膜を作製できることを見いだした。プラズマ診断によって、スパッタ成膜におけるプロセスパラメータとプラズマパラメータおよび成膜されたCo-Cr膜の物性との関連性について調べた結果、成膜中に基板に照射するArイオンのエネルギーがCo-Cr膜の物性に極めて大きな影響を与えていること、垂直磁気異方性膜として優れた結晶性、結晶配向性、磁気特性のCo-Cr膜を実現するには、照射イオンのエネルギーを約20eV以下に制御することが必要である、などのことが明らかになった。この研究成果は、今回、プラズマ生成とスパッタと成膜を分離して行えるECRスパッタ法を導入したことによって本研究によって初めて解き明かされたものである。
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