本研究では、音声の生成器官の一つである鼻の音響的性質を、従来より実際に近い形態によって解明するため、人間の発音時の鼻腔をMRIで観測した形状のデータに基づいて幾種類かの3次元構造を有する音響管モデルを作成し、その内部の音波伝搬について分析、検討を行った。 作成したモデルは、軟口蓋から鼻孔まで、鼻道のみの断面積とその周囲長をもとに楕円で近似したモデル、MR画像を基に鼻道形状を忠実に再現したモデル、および、これら2つのモデルを基にした各種変形モデルである。 これらのモデルを、有限要素法を用いて計算した。計算結果から、伝達特性等を求め、解析した。その結果、鼻道の音響特性は、その断面形状、分岐、非対称性、鼻道の曲がりに影響を受けることが確かめられ、従来の単純な直管形のモデルの限界が明らかにされた。また鼻腔の非対称分岐は、出力特性に極零対を発生させる。複雑な形状や、鼻道の曲がりは、鼻道内部で音響インテンシティが渦を巻き零点を生じさせる。 副鼻腔の効果については左右一対づつの上顎洞と前頭洞が、それぞれ単独あるいは同時に存在する場合について解析した。これらは、左右の非対称性によって複雑になるがそれぞれでは単純なHelmholtz共鳴器として作用し、各副鼻腔の共鳴周波数付近で鼻道伝達特性に極と零点を発生させる。これら極・零点は、伝達特性の第一共振周波数に影響する。2000Hz以上の高い周波数には影響を与えない。 鼻道の断面積を変化させ、あるいは一部分を閉鎖した場合の影響も調べた。
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