ヒト手指の感覚特性と皮膚構造に着目した触覚インタフェースの基礎的研究

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07650465
• 研究種目: 一般研究(C)
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 井野 秀一 北海道大学, 電子科学研究所, 講師 (70250511)
• 研究分担者: 田中 敏明 札幌医科大学, 保健医療学部, 講師 (40248670) ; 高橋 誠 北海道大学, 工学部, 助教授 (10154858) ; 伊福部 達 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (70002102)
• キーワード: 手指 / 皮膚感覚 / 心理物理学 / 触覚ディスプレイ / 触覚センサ / ヒューマン・インタフェース / 人工現実感 / テレロボティクス

研究概要

本研究課題では、(1)触覚情報を臨場感溢れる形式でヒト手指に再現するには如何にすべきかという命題の解決と(2)触覚インタフェースシステムの設計・試作を研究目的としている。本年度は、(1)に対応する基礎研究としてヒト手指の把持能力を多角的に調べ、そこで得た結果に基づき、(2)の触覚インタフェースシステムを構成する触覚センサと触覚ディスプレイの構築を試みた。以下に具体的な成果を示す。
触覚インタフェースの設計基準の手がかりを得るため、指先の触覚においてどのくらい精度よく把持物体の状態を捉えられるかを心理物理実験により調べた。その結果、手指の体幹方向での方向弁別閾は10〜17°、水平方向では7〜10°であり、方向依存性もあることがわかった。さらに、右手と左手において若干の差があり、利き手の示指と拇指の閾値が手指のなかで最も小さく、利き手の小指と利き手でない示指は同程度の閾値であった。この結果から触覚インタフェースシステムを構成する際には、部位や触覚情報の呈示状況に適応させた制御アルゴリズムを採用すべきであることが明らかになった。他方、皮膚の機械的特性として、指腹面がどれだけ変形し得るかを調べる実験を行った。その結果、体幹方向ではどの指も同程度(1.2mm)であったが、水平方向では示指に比較して拇指での可変形量が大きく、手指の皮膚の機械的特性には触覚特性と同様に部位や方向の特異性があることが確認された。
これらの基礎実験の結果を設計指針に組み込んだ触覚センサと触覚ディスプレイを試作した。センサとディスプレイは共に把持動作に欠かせない「圧」や「ずれ」の情報を同時に検出あるいは呈示できる機能を持つものである。試作したセンサは皮膚の構造を模擬し、粘弾性材料による多層構造内にチップコイルを組み込み、センサの露出面に加わる接触外力によって生じる「ずれ」を3次元の変位ベクトル情報としてとらえる仕組みになっている。大きさは指頭ほどである。性能評価の実験からセンサの検出精度はほぼヒト手指の触覚と同程度であり、触覚インタフェースのセンサとしての精度をほぼ満たしていることを確認した。試作したディスプレイは駆動源に空気圧を用いて機構の簡素化を図りやすくなるようにしてある。その結果、30gほどの小型の指先に搭載可能な試作器になった。このディスプレイのずれの呈示機能は±3mm、圧の呈示機能は最大600gfである。性能評価実験からコップに水を注ぐ状況である程度再現できることが分かった。なお、能動的触察を可能にする“Haptic"な触覚ディスプレイの研究の一環として、水素吸蔵合金アクチュエータを利用したフォースディスプレイの試作も行ったことを付記する。

研究成果

• [文献書誌] 和田親宗,井野秀一,伊福部達: "高度難聴者用のタクタイルボコーダにおける音声スペクトルのスウィープ呈示方式の提案と評価" 電子情報通信学会論文誌A. J78-A. 305-313 (1995)
• [文献書誌] 清水俊治,井野秀一,伊福部達,他: "水素吸蔵合金(MH)アクチェ-タを用いたフォースディスプレイの試作と評価" 電気学会論文誌C分冊. 115. 280-285 (1995)
• [文献書誌] 黒木速人,井野秀一,伊福部達,他: "3次元触覚ディスプレイに関する基礎的研究" 計測自動制御学会 Human Interface News & Report. 10. 497-502 (1995)
• [文献書誌] 黒木速人,井野秀一,伊福部達,他: "ヒトのし触覚特性を考慮した三次元触覚ディスプレイの設計" 計測自動制御学会 第10回生体・生理工学シンポジウム論文集. 10. 65-68 (1995)
• [文献書誌] 清水俊治,井野秀一,伊福部達,他: "力情報の呈示方式と感覚特性に関する研究" 電子情報通信学会技術研究報告MBE. 95-31. 55-60 (1995)
• [文献書誌] 和田親宗,井野秀一,伊福部達: "聴覚代行における触覚の利用方法の研究" 電子情報通信学会技術研究報告 HCS. 95-15. 53-58 (1995)