平成7年度における縮尺モデルによる理論と実験の食い違いが解消した。すなわち、2MHzの正弦波で駆動する円盤トランスジューサ表面の振動分布の再構成像が数値シミュレーションと良い一致をみないという問題は、実験データ取得のための同期検波回路の構成と数値処理における座標軸の取り方に不一致があったためと判明した。そのため、その後は予定通り、バイオリンの振動計測の実験が実施できた。 まず、パイオリン板の振動モードを測定した。板の振動速度の分布が得られたが、その節のパターンは以前クラニド法で得たものに良く一致していることから、この結果は十分に信頼できると考えられる。とくに、固有振動周波数335Hzのリングモードでは、発射音波の空気中の波長が約1mであるにもか拘わらず、板のf孔が再構成、映像化され、その分解能はおよそ1cm、すなわち波長の1/100におよんでいる。この結果、近距離音場ホログラフィの威力をまざまざと実感することができた。その後、バイオリン実器の振動解析を行った。板の場合と異なり、鮮明な共振モードは確認できなかったが、これは"楽器"というものの性質上、あるいは当然の結果とも考えられる。ともあれ、振動体の表面の振動分布を非接触で、定量的に計測するという本研究の目的は、ひとまず達せられた。 これらの結果は、平成9年4月「音響研究・教育のためのシミュレーション、映像化および音声化」国際会議(ASVA'97)にて発表する。また、学会誌ではないが、日本工業出版(株)の「超音波TECHNO」6月号に解説記事として、研究成果の一部を取り上げる。
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