本研究では走査電子顕微鏡を用いて第二種超伝導薄膜における貫通磁束の挙動をリアルタイムに観察することを目的としている。これは走査電子顕微鏡のType-I磁気コントラストを利用するものである。この研究により、超伝導電流に大きな影響を及ぼす磁束のピン留めを起こしている原因物質、資料構造、欠陥などについての重要な知見が得られる可能性がある。SEMは元々nmオーダーの空間分解能を持ち、磁性発現の原因を知るためのシステムとして適していると考えられる。 本研究では、まず、試料の磁化構造(磁化の強さ、透磁率、磁区の三次元的構造)と、走査電子顕微鏡試料室内の構造(二次電子検出器の形状とその電位、検出器の位置)等に現実的な値を想定して、試料表面から放出される磁束、試料表面付近の電界を数値計算によって求めた。次に、この静磁界・静電界中に、試料表面からエネルギー分布および角度分布を持って放出される二次電子軌道を三次元座標によって計算した。 本研究の実験に用いる走査電子顕微鏡試料室内の低温試料台の温度としては30Kまで到達し、試料の超伝導状態への転移は確認した。しかし、実験では現在までのところ計算で得られるようなコントラストを得るに至っていない。これは、試料表面から放出される二次電子のもつ角度分布、エネルギー分布による、原理的にこの測定法に含まれてしまうノイズによるものと考えられる。そこで、シミュレーションではこの大きさを定量化した。また、この場合の信号対ノイズの値を大きくとり、本方法での感度を向上させるための方策とその時に得られる感度を定量化した。予備的に行った一般的な磁性体薄膜の観察実験では、Type-I磁気コントラストの性質をシミュレーション結果と比較し計算の妥当性を確認した。
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