本研究の目的は、海面上昇など長期的な環境変動による海岸侵食を予測するために、海浜の平衡縦断地形の概念を再検討することである。まず、地球温暖化による海面上昇によって、砂浜が大きく侵食されることを明らかにした。しかし、予測に用いられるBruun則は幾何学的な考察に基づいているため、力学的な根拠が力学的な根拠を持った平衡地形モデルを構築する必要がある.そのために本研究では、1)電力中央研究所、運輸省港湾技術研究所波崎観測ピアなどから砂浜の縦断地形に関する実験・実測データを収集した。2)汀線及び水深別の等深線の位置の時系列変化と沖波波形勾配、入射エネルギーフラックス、砂村の地形パラメタ等外力のパラメタとの相関を検討した。3)収集した縦断地形を相似な形状の地形タイプに分類し、各々の地形タイプ毎に平均的無次元縦断形状を求めた。4)波高・周期結合分布に従って入射波をいくつかの(波高、周期)のグループに分け、それぞれに無次元縦断形状を対応させた。4)現地海岸(茨城県常陸那珂海岸)を対象に、波高・周期の出現頻度を考慮してこれらの地形を重ね合わせ平均縦断地形の再現を試みた。 その結果、次のような結果が得られた。1)縦断地形の変化はその時点の瞬間的な外力パラメタとは充分対応しない。汀線位置の時系列変化と最も高い相関を示したのは累積エネルギーフラックスであった。このことは、先行する入射波の履歴効果(先行する地形)を考慮することが必要なことを示している。2)砂村の分類(侵食型、中間型、堆積型)を参考にして、収集した縦断地形は7種の地形タイプに分類できた。3)再現された平衡地形と従来提案されている平衡地形との適合度はよくない。平衡地形を再現するためのモデル化においても、過去の波の作用の履歴効果を考慮することが不可欠である。
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