研究概要 |
昨年度の研究により,海岸域と外洋域の中間に位置しそれぞれの領域からの影響を伝える領域として″coastal buffer zone″の重要性が示された.そこで本年度は,coastal buffer zoneの性質をさらに克明にとらえるために,(1)成層期の広域現地観測及び(2)非成層期における流動シミュレーションによる検討を行った. (1)成層期の流動特性を把握するための広域現地観測 昨年度の現地観測から,成層期の開放性沿岸域では内部波による海水流動が顕著であることが示された.そこで今回は,観測領域を岸沖方向12km,沿岸方向12kmと大幅に拡大し,内部波動の時空間的変動構造の全体像を把握することを試みた.その結果,成層期の内部波動として,1)周期2日以上の長周期波動,2)日周及び半日周期の内部潮汐、の2つの要素によって主に構成されることが明らかとなった.このうち,長周期波動現象についてはその発生原因が風による底層水湧昇にあること及びそれが陸棚域に拘束され沿岸方向に伝播するスケールの大きな波動現象であることを明らかにした.このような長周期波動は単に水温変動を引き起こすだけでなく,cosatal buffer zoneに大きな流速変動(沿岸方向)を発生させることが現地観測結果からも示されており,開放性沿岸域の水環境特性に大きな影響を与えていることが考えられる.さらに内部潮汐波については、半日周成分と日周成分でその伝播特性が大きく異なり,半日周成分が海岸線にほぼ直角に入射する慣性重力波であるのに対し,日周成分は沿岸方向に伝播する内部ケルビン波的であることを明らかにした. (2)沿岸境界域における吹送流の3次元流動シミュレーション 非成層期には,海上風が駆動する吹送流がcoastal buffer zoneの流動に支配的であることが我々の現地観測結果によって明らかにされている.今回の研究では,3次元流動数値シミュレーションによって陸岸近くの吹送流の特徴を調べた.その結果から,陸岸に比較的近いcoastal buffer zoneにおいては,海底摩擦の拘束効果により,表層エクマン境界層が十分に発達せず,その結果風応力と底面摩擦力のバランスによって比較的大きな沿岸流速が発生することがわかった.
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