本研究では、粉雪雪崩と火砕流が互いに類似の点を多くもつことに着目し、これらを統一的に表現するモデルの開発を行うことを目的とする。このため、粉雪雪崩と火砕流が共に固体粒子を浮遊する傾斜サーマルであるとの認識に立ち、これらの流れの流動機構の類似点と相違点を明確にしたうえで、流体力学的な基礎に基づいてこれらの流動をシミュレーションできるモデルの開発を行った。 固体粒子を浮遊する傾斜サーマルのシミュレーション手法のための基礎データを得る目的で、塩水及び硫酸バリウム混合水を用いた傾斜サーマルの室内実験を行う。実験条件として、斜面の傾斜角、塩水の初期濃度を変化させて実験を行った。主な測定項目は、フロントの移動速度、フロントの最大高さ、塩分濃度分布、流速分布、サーマルの形状などである。これらの実験データは固体粒子を浮遊する傾斜サーマルの理論を構成するために用いることとした。 ここで提案した傾斜サーマルのモデルは解析の便宜をはかるため、多くの関係式を構成方程式として組み入れる必要がある。特に、浮遊サーマルに特有の関係式として、傾斜角によるサーマルの形状の変化、固体粒子の連行係数、周囲空気の連行係数などが必要である。そこでこれらを合理的にモデル中で表現するため、文献調査を行うとともに室内実験に成果を取り入れた。 得られた固体粒子浮遊流動モデルにより数値計算を行い、硫酸バリウムを用いた室内実験、現地での粉雪雪崩の測定結果と比較した。室内実験との比較では硫酸バリウム粒子の沈降特性に注目し、雪崩の減速域での流動特性をモデルで再現できた。また、現地実験との比較によって、雪崩の到達距離を再現することができた。
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