1.水文量の評価に関わる時間・空間スケールを扱った国内外の研究を収集整理した結果、研究の数は多数に及ぶものの、個別的な事例研究が多く時間・空間スケール問題としての系統的な議論を繋がる研究は少ないことが分かった。この点について考慮すれば、まずは時間変化が小さい現象についての空間スケールの検討から開始することが適当であると考えられた。 2.上のことを念頭に、主要な水文諸量に固有な時間・空間的な変動特性の解析に着手した。初年度として、重要な水文量に陸面・大気系の水熱フラックスに関係する土壌水分量、および降雨に対する流出応答に直接関係する地形に注目し、以下のような基礎的検討を行った。 (1)典型的かつ基本的な土壌条件として裸地および草生地を対象とし、そこでの表層土壌の体積含水率および物理特性としての乾燥密度について広範な現地調査と解析を行い、それら諸量の空間的な分布特性を明らかにした。結果として、調査対象とした土地利用下での土壌水分分布の変動係数は一定であること、体積含水率と乾燥密度とは水分量の多少により乾燥密度と負正の相関があること、同一の土地利用地の体積含水率はほぼ正規分布をすること、乾水田域の水分分布スケールは田1枚程度であること、などが分かった。 (2)国土数値情報(標高データ)により作成される擬河道網について、データメッシュ間隔を順次増大させて地形をスケールアップして表現することの妥当性を調べた。どの程度までメッシュスケールを大きくすると位数理論に基づく地形的特徴が変化するか、見掛けの流出の遅れ時間に変化が生ずるか、などについて検討した結果、地形特性量はメッシュ間隔500m以下と1000m以上の場合とで大きな差異が生ずること、河幅の設定も重要で、線的な情報のみの考慮では空間スケールの評価が不十分になること、などが知れた。
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