建設省が管理する約50ヶ所のダム湖の生物調査資料を統計解析し、さらに主要なダム湖の現地調査およびヒアリングを行い、良好な(あるいは劣悪な)生態環境が得られていると評価されている場合において、何がその支配的な環境要素であるかを抽出・分析した。多くのダム湖は、天然湖沼と比較すると水位変動が大きい、湖岸形状や水際の勾配が急峻など、魚類の生息環境場として必ずしも好ましいとはいい難いと思われるのが普通である。それにもかかわらず、20種以上の魚類が確認されたダム湖が、調査対象ダム湖の約2割以上に及んでいる。それらの理由として、ダム湖の湖盆形状、水温分布他、ダム湖への流入河川の特性やダム湖の水位運用が、魚類の産卵場所、時期や仔稚魚の生息場所との関係で重要であること、魚類の餌となるプランクトンや、湖岸の沈水・抽水植物の分布状況も重要な要因であることが明らかにされた。 魚類の生息環境場としての主要な指標の抽出は概ね整理されたものの、魚類の生息条件を支配する要因には種々のものが考えられ、魚類の産卵場所、稚仔魚から成魚に至る生活史や胃の内容物から判定される餌料生物環境など、調査を行った研究者の野帳にまで遡って検討することなどが必要であった。さらに、琵琶湖の人工産卵河川と同様な手法や浮き産卵床の整備などをダム湖の流入河川や湖辺において実施する事例(広島県王泊ダム)を収集し、自然のサイクルに合ったより安定した魚類の生息場の確保を考えていく具体的な方策を検討した。 このように、ダム湖利用の新たな試みを着実に実施していくためには、既設ダム湖内の魚類の移動特性も含めた生息実態のより詳細な把握、各種無機環境の指標の詳細な調査、および淡水湖の宝庫である、たとえば琵琶湖のような天然湖沼の情報を踏まえて調査研究を今後進める必要性などが指摘された。
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