研究概要 |
建築基礎構造では、地盤沈下地帯の杭基礎に生じる負の摩擦力(NF)を低減させるため、杭表面にアスファルト等のスリップ層を設けたSL杭を用いる例が多い。この場合、地盤が軟弱なため地震時の挙動性状が問題となるが,既往の研究では長期せん断変形に対するNFの低減効果のみが対象とされ、地震時の挙動に関する研究が皆無であった。本研究は、地震時SL杭の鉛直挙動に関する基礎資料を得ることを目的として、建物のロッキングによるSL杭の挙動を想定し、繰返しせん断変位振幅および速度がSL層の応答性状に与える影響について要素実験を通して検討した。 実験は、冷水循環装置による恒温水(一般的地中温度15℃に設定)中に供試体を浸し、二面せん断方式で実施した。実験パラメータとして、せん断変形速度5、10、50%/secの3ケースのそれぞれについて、定振幅(50サイクル)実験ではせん断変形振幅±1.0、±2.5、±5.0、±7.5mmの計12ケース、および漸増振幅(±1.0〜±7.5mm)実験では3ケースを実施した。 結果として、定振幅実験から、1.せん断抵抗力Τ〜せん断歪Yの骨格曲線は歪速度によりグル-ピングできること、またループ曲線では歪速度の増大によるTの増加、サイクル数の増加による抵抗剛性の減少、振幅増大によるソフトニング(紡錘型)からハードニング(逆S字型)への特性変化、および各サイクルにおけるピークT値が減少から一定ループへ収束する傾向のあること等の知見を得た。一方、漸増振幅実験から、2.各サイクルのピーク時におけるT値は、あるサイクル(振幅)で最大値を示し、その後減少する特性のあることを明らかとした。また、3.定振幅実験結果よりサイクル数と各サイクルのピークT値の低下率が一次の双曲線関数で表せること、および漸増振幅実験結果より各サイクルのピーク時のTとYを最大ピーク時の値で無次元化することにより、これらの関係を二次の双曲線関数で表現できることを示した。 今後さらに実験を重ね上記3の成果を発展させ、地震時SL杭の鉛直挙動解析用構成式を構築する計画である。
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