コンサートホール音場の主観評価において、例えば、"客席中央付近は、ピアノソロの場合音量感に乏しい""弦楽オ-ケストラに対して、2階席は非常に澄んだ音がする"或いは"後方座席では、金管の音が耳に付く"というように、音源の種類や位置、或いは聴取エリアの設定という視点が重要な意味を持つ。しかしながら、通常の物理評価は、音源についていえば舞台上の代表点に設置した無指向性音源を仮定して行われるのが常であり、演奏会における聴感印象との対応も明らかではない。このような観点から、本研究は、音源の性質を考慮に入れた、より実際の音場の条件に対応した評価法を明らかにしようとするものである。 平成7年度は、音源(楽器や音声)の有する基本的な性質を指向性の鋭さ、指向主軸の向きおよび舞台上の位置の3点からモデル化し、これらと従来の無指向性音源を用いた場合の室内音響指標の値の差について幾何音響をベースにしたコンピュータシミュレーションにより検討した。その結果、音源の指向特性の違いによりC_<80>について2〜4dB、EDTについては10〜30%以上の差が生じること、また反射音の方向情報に着目した指標については、音源によるばらつきが室の形状によって大きく異なることを明らかにした。 平成8年度は、音源の指向特性の違いが、上記の室内音響指標を用いて行われる室形状の評価においてどの程度の影響を与えるかについて検討した。その結果、横幅の広い平面形に比べて縦長の平面形では、客席を向いている音源の指向性の影響が強く現れる反面、指向性の鋭さに依らず一様な空間分布が確保されやすいこと、そして、想定する音源の指向性の違いが最適形状の決定を左右する可能性があり、特に弦楽器のように指向性の鋭い音源を対象にした検討が無指向性音源に対する検討とともに音響設計上重要であることを示した。 以上の結果は、これまでの無指向性音源による評価に加えて指向性音源を用いた検討を行うことが、より実際のコンサート音場に対応した評価法として有効であることを示すものである。"室内楽専用ホール"や"ピアノの音を重視したホール"等、他のホールとの差別化を謳い文句にした特色あるホール造りのためにも、音源の特性まで包含した音場の評価というものが必要であると考えられる。
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