本研究は、長年に渡って評価されてきた浮世絵風景画「東海道五十三次」「木曽街道六十九次」を分析対象として、(1)「緑」の要素の配置手法を分析することにより緑化計画の示唆を得ること、(2)景観の構図の典型タイプを導き出すこと、(3)景観設計手法における一般的な指標を導き出すことを目的としている。 平成7年度は、まず浮世絵に描かれた樹木、草地等の「緑」の構成要素について、風景画から判断できる範囲内で樹種を調査し、植物学体系の分類で5種類、目立った特徴により、3種類、存在形態によって8種類、景観タイプについて7種類、樹木の実用的機能について9種類、樹木の構図的機能について3種類に分類した。つぎに、樹木の高さと道幅の比(h/w)、並木道の樹木の間隔と道幅の比(l/h)等を浮世絵風景画の画面上で、人物の平均身長との比較により測定することによって、(1)樹種では、全体的にアカマツが多く描かれ、これに加えて「東海道五十三次」では、クロマツ、タケ類、スダジイが多く描かれ、一方「木曽街道六十九次」ではヒノキが多く見られること、(2)全体的に緑の少ない「東海道五十三次」では、花・果実樹が多くみられるなど、緑を重要な構成要素として捉えていることが伺えること、(3)中景の緑は横主視線上に多く描かれており、重要な構成要素であると考えられること、(4)集落の入口には、目印としての機能を果たすために、比較的樹高の高い樹木を植えていたと考えられること、(5)集落の外から眺めたときに集落の中、あるいは背後に見える緑があり、その高さは、建物高さの約1.7倍となっていること等が明らかになり、本研究の目的である(1)描かれた構成要素のうち「緑」の要素に着目し、樹木の配置手法を分析することによって自然景観における緑化計画の示唆を得ること、(2)画面内の「緑」の位置を分析することによって景観の構図の典型タイプを導き出すことの一部が達成された。
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