研究概要 |
脊髄損傷者が手動車イスを使用して,交差点を横断する移動実験を実施した.アイカメラを装着した被験者があらかじめ決めておいたルートを日常的に使用している手動車イスを操作しての移動を行った.実験ではできるだけ日常的な行動をすることが望ましいために,出発地点から交差点を一周して出発点まで戻ってくるように指示するのみで,その他については被験者の判断に委ねた.実験の結果,歩行を維持するために空間側から得る視覚情報のうち注視の占める割合は移動中では通常歩行60〜65%,車椅子移動40〜45%,信号待ちでは通常歩行,車椅子移動とも70%である.平均注視時間では通常歩行,車椅子移動とも個人差は認められないが,移動中よりも信号待ちの方が長くなる.注視対象は安全性に関するものが主である.移動中の場合は,通常歩行では静的注視対象が46%を占めるのに対して車椅子移動では路面が72%を占める.信号待ちの場合は,自動車への注視が通常歩行では41%,車椅子移動では35%,信号への注視は通常歩行では20%程度,車椅子移動では10%程度である.注視距離は移動中の場合は,通常歩行では8m程度,車椅子移動では6m程度である.信号待ちの場合は,通常歩行では11m程度,車イス移動では8m程度であり,移動中よりも信号待ちの方が長くなるなどの知見を得た。手動車イスを操作して移動する場合の視覚情報収集は比較的限定された空間のものである.車イス使用者の視覚情報収集が広範囲にまで及ぶような空間構成がより重要であると考えられる.バリアの多い歩行者専用空間での移動実験についての解析結果から多くの知見を得ることができた.脊髄損傷者の場合,半身不随になった原因がさまざまであり,車イス生活経験年数も異なり,年齢もさまざまである.同じ条件の被験者を揃えることは困難であるが当初の目的を達成することができた.
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